「バカにされたくないとこだわる自意識」を捨てる

できることも増えています。私たちの世代では人生の半ばを過ぎてからパソコンが職場に入ってきましたが、いまでは私にも生活上欠かせない道具になっています。

必要に迫られた結果、インターネット検索、パワーポイントづくりなど、自分には無理かなと思っていたこともこなせるようになっています。この1、2年の間に、遅ればせながらQRコードで予約を取ることもできるようになりました。

30歳のときの私、40歳のときの私はできなかったけれどいまはできる、知っていることがたくさんあります。多くの60代や70代の人は、私と同じように感じているでしょう。

社会生活で必要になっているスキルは、若い人や専門家に教えてもらいながら身につけなければなりません。あきらめて試してもみない、教えてももらわない、練習もしないという態度では、時代に適応する最低限のスキルも身につきません。

「知らないと思われるのは恥ずかしい」「こんなことで若い人をわずらわせては申し訳ない」というのは“謙虚”なのではなく、バカにされたくないとこだわる自意識が高すぎるせいなのです。

互いに「応援する、感心する、褒める」関係をつくる

何より大事なのは心の持ちようです。年を取ると、たしかにもの覚えが悪くなるとか、重いものが持てない、速く走れない、両方の指でスマホに入力できないなど、できないことも増えてきます。

しかし周囲と比べるのではなく、過去の自分と比べてみるのです。

若いときにはできたのに……これもできない、あれも無理だ、と数え立てていては、気持ちが沈んでいくだけです。そうではなく、できるようになったことを意識的に数えてみるのです。「前はわからなかったのに、こんなに新しいことがわかるようになった」と、自分で自分を励ましましょう。

自分自身で褒めるのが難しかったら、褒めてくれる人とつきあうことです。そして自分も人の進歩を認め、応援する、感心する、褒めることを相互交換するのです。

坂東眞理子『与える人 「小さな利他」で幸福の種をまく』(三笠書房)
坂東眞理子『与える人 「小さな利他」で幸福の種をまく』(三笠書房)

そして、老眼になったら眼鏡をかけるように、聴力が落ちたら補聴器をつける、歩くのがおぼつかなくなったら杖を突くように、使えるものを十分に使いこなして、社会生活を続けていくことが大事です。恥ずかしいという気持ちにとらわれてはいけません。

「あれもできない」「これもできなくなった」と引き算をして、「人に迷惑をかけないでひっそり消えていくのが美しい」という『徒然草』の時代のような美意識や人生観から解放されなければなりません。

「自分はこれができるようになった」「人の気持ちや社会のあり方がわかるようになった」と足し算で考えて、自己肯定感を高めていくようにしましょう。

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